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福岡地方裁判所小倉支部 昭和59年(ワ)715号 判決

原告

金古次雄

ほか二名

被告

有限会社池田スイミングクラブ

ほか一名

主文

一  被告両名は、各自原告金古次雄、同金古和子に対し、それぞれ六四七万二三六九円及びこれに対する昭和五九年九月一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告金古次雄、同金古和子のその余の請求、原告金古健の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告金古次雄、同金古和子と被告両名との間に生じた分はこれを三分し、その二を右原告両名の連帯負担とし、その余は被告両名の連帯負担とし、原告金古健と被告両名との間に生じた分は全部同原告の負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告ら)

一  被告両名は、各自原告金古次雄(以下「原告次雄」という。)、同金古和子(以下「原告和子」という。)に対しそれぞれ二一一二万九六七二円、同金古健(以下「原告健」という。)に対し五五〇万円、及びこれに対する昭和五九年九月一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言

(被告両名)

一  原告らの各請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)により、原告次雄・同和子夫婦(以下「原告夫婦」という。)の長女であり、原告健の唯一人の妹であつた亡金古悦子(以下「悦子」という。)は脳挫傷の傷害を負い、昭和五八年四月一九日午後八時五分頃、北九州市八幡東区西本町四丁目一八番一号、北九州市立八幡病院において脳挫傷・頭蓋骨粉砕骨折・気脳症脳脱により死亡した。

1 日時 昭和五八年四月一九日午後六時五〇分ころ

2 場所 北九州市八幡西区筒井町一五番一号先八幡西区役所前停留所

3 加害車 被告有限会社池田スイミングクラブ(以下「被告クラブ」という。)所有の大型乗用自動車(以下「本件バス」という。)

4 右運転者 被告谷口達男(以下「被告谷口」という。)

5 事故の態様 本件バスが、前記停留所において一旦停車し、発進しようとした際、悦子が乗降口ドアーにはさまれたのに気づかず約三四メートル進行したうえ、乗降口にはさまれていた悦子を路上に転落させて、加害車の左後輪で轢過した。

二  責任原因

1 被告クラブについて

被告クラブは本件バスを所有し、これを自己のため運行の用に供しており、かつ被告谷口の使用者であつたから、自動車損害賠償保障法三条本文及び民法七一五条により、原告らの後記損害について賠償すべき義務がある。

また、原告夫婦と被告クラブとの間には、悦子の同クラブへの在学契約とも称すべき契約が締結されていた。そして、同契約により被告クラブが負つていた債務には水泳指導することに加えて、同被告保有のスクールバスで悦子を安全に送迎するということも契約内容として含まれていた。原告夫婦は被告クラブへの入学手続に際しては、スクールバスでの送迎についても申込みをなし、その費用は授業料とは別途支払つていた。被告クラブは本件バスについて小学生らが乗降するのを知りながら附添人も同乗させず、被告谷口に任せたままであつた。被告谷口は右安全送迎義務の履行に際しての被告クラブの履行補助者であり、被告クラブは被告谷口をして安全送迎義務を完全に履行させる責任を負つていたものである。しかるところ、被告谷口は後記2のとおり注意義務を怠つて悦子を死亡させたから民法四一五条による責任がある。

2 被告谷口について

被告谷口は、被告クラブに勤務し、同クラブに通う児童らの送迎バスたる本件バスの運転に従事していたものである。

被告谷口は、本件当時、前記停留所において児童三名を降車させ、自動開閉レバーにより乗降口のドアーを閉鎖し、発進しようとしたが、このような場合、自動車運転手としては自動ドアーの開閉ランプを確認するのはもちろん、ルームミラーおよび左サイドミラーで乗降口付近を注視し、児童が乗降口ドアーに挟まれていないことを確認して発進すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り漫然発進した過失により、一旦降車した後車内に引き返そうとした悦子が、乗降口ドアーに挟まれたのに気づかず約三四メートル進行したうえ、乗降口に挟まれていた同女を路上に転落させて左後輪で轢過し死亡させたのであるから、民法七〇九条により原告らに生じた後記損害を賠償する義務を負う。

三  損害

(一) 原告次雄・同和子について

1 医療費 四万五五〇円

2 葬儀・法事関係費等 二四〇万円

3 悦子の逸失利益 二〇八七万九二四五円

悦子は本件事故当時九歳の心身共に健康な女児であり、本件事故にあわなければ四年制大学卒業後六七歳まで就労可能であつた。従つてその間、四年制大学卒女子の平均賃金程度の収入を挙げ得たもので、原告夫婦は悦子の両親であるから、右逸失利益の損害賠償請求権を各二分の一相続したものである。

亡悦子の逸失利益算定につき昭和五九年賃金センサスに基づき四年制大学卒女子の平均賃金を基礎に生活費控除を三割とし、二二歳から就労するとして算定すると次のとおり二、〇八七万九、二四五円となる。

計算式

年収:(196,500×12+655,700)×1.05=3,164,385(5%のベースアツプ分を加算した)

逸失利益:3,164,385×(1-0.3)×9,426=20,879,245

なお原告夫婦及び悦子の祖父母、叔父、叔母らは共に四年生大学を卒業しているものであり、原告ら夫婦はごく当然に悦子を少なくとも四年生大学に進学させたいと期待していた。また、悦子は幼時より健康で利発な子供で小学校入学以来その学業成績は一貫して優秀であり、図画や作文のコンクールでも度々入賞した経験を持つ勉強の好きな子供であつた。このような原告ら家族にとつて、悦子が学業を高校までで打ち切り、高卒後就職することは全く考えられないことであつた。

また、近年女子の高等教育を受ける割合は年々上昇の一途を辿つており、いわゆる男女雇用機会均等法の成立もあつて、今後女子の就業の機会が増加することが予測され、そのことがまた女子の高学歴化に拍車をかけるものとおもわれる。このような一般的趨勢をも考慮すれば悦子が四年生大学での教育を受けることは原告らには当然のことといえるのであり、悦子の逸失利益算定には四年生大学卒就業者の平均賃金を基礎とすべきである。

4 慰藉料 合計三五〇〇万円

悦子に対する分として一五〇〇万円、原告らに対する分として各一〇〇〇万円。

悦子は本件事故により殆んど即死に近い状況で僅か九歳の生を閉じさせられたものであり、このような事故で一人娘を失つた原告らの両親としての精神的苦痛を金銭をもつていやすことはできないが、今仮にこれを金銭に見積るとすれば、右金額を下ることはない。

悦子自身に対する慰藉料請求権は、両親である原告次雄・同和子が各二分の一相続した。

5 弁護士費用

原告夫婦は、原告訴訟代理人らに本件損害賠償請求手続を依頼し、その弁護士費用として、右両名の損害合計額約五八三〇万円より、強制保険より支払をうけた一九七六万四五〇円を差し引いた額の約一割に相当する金三七〇万円(各一八五万円)を支払う旨約した。

よつて、原告次雄・同和子の各損害額は二一一二万九六七二円である。

(二) 原告健について

1 慰藉料 五〇〇万円

原告健にとつて悦子は唯一人の妹であつたから本件のような無残な事故によつて右原告の蒙つた精神的苦痛を金銭によつていやすことはできないが、今仮にこれを金銭に見積るとすれば右金額を下ることはない。

民法七一一条は、請求権者を被害者の父母、配偶者及び子に限定するかのような規定の体裁をとつているが、これに限定すべきではない。同条を類推する範囲の基準は当該遺族が社会観念上、金銭で慰藉されるべき精神的苦痛を被つたか否かであり、原告健と悦子の兄妹仲のよかつたことは日常の生活にはつきり現われており、悦子と深い心のきずなで結ばれた原告健が民法七一一条の近親者にあたらないとすることは許されない。

2 弁護士費用

原告健は、原告訴訟代理人らに本件損害賠償請求手続を依頼し、その弁護士費用として右損害額の一割に相当する五〇万円を支払う旨約した。

四  よつて被告らに対し、原告次雄・同和子は、三、(一)記載の損害合計額としてそれぞれ二一一二万九六七二円、原告健は三、(二)記載の損害合計額五五〇万円及びそれぞれこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五九年九月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一  請求の原因一は認める。

二  同二の1のうち被告クラブが本件バスを所有し、自己のために運行の用に供していたこと、また被告谷口の使用者であつたから自動車損害賠償保障法三条及び民法七一五条により原告らの損害を賠償する責任があるとの点は認め、その余は争う。

今日不特定多数の乗客(小学校低学年も当然含まれる。)を乗車させて運行されるバスはワンマン運行されているのが通常であつて、運転手以外に乗務させなかつた点に被告クラブの落度があるとはいえない。また、原告夫婦は児童送迎用バスの運行がワンマン乗務員によつてなされていたことは認識していたものであつて、悦子にとつてはそれで十分と考えて被告クラブを選択したはずである。

同二の2は争う。

三  同三以下は全て争う。

(抗弁)

本件事故は以下のような状況で発生したものである。

本件事故現場である八幡西区役所前停留所において、被告谷口は停車したのち、被害者悦子を含む三人の生徒がそれぞれ「おじちやんバイバイ」などと声をかけながら本件バスから降りるのを振り返つた姿勢で確認した後、自動ドアを閉めた。

しかるに被害者悦子はいつたん二メートル程車から離れたのに突然引き返しバスに飛び乗ろうとしたため、閉まりかけていたドアに片手、片足をはさまれ、その後被害者悦子はバスから落ち、事故にあつたものである。

右のような事故状況からすると、被害者が降車し車両から遠ざかるのを肉眼で確認した被告谷口にとつて、本件事故は予想外のものであつたことがうかがわれ、又いつたん降車したのちドアが閉じかかつている車両に飛び乗るという危険な行為を行つた被害者側にも相応の過失があると言わざるを得ず、三〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。

(抗弁に対する答弁)

抗弁事実中、悦子が降車後に引き返してドアにはさまれたことは認め、その余は争う。

前記のとおり本件バスに運転手である被告谷口のみを乗車させていた点の被告クラブの過失は大である。また、被告谷口には前記の過失があるが、詳述すれば、自動ドアの開閉状況は、運転席横の自動ドア開閉ランプによつて表示されるのに、本件事故の際右ドアランプを確認しなかつた過失、運転席に座つて左バツクミラーを覗けば自動ドアの部分は十二分に視認可能であつたのに、バツクミラーによるドアの状況の確認を怠つた過失、本件バスはルームミラーが設置されていたから、これにより自動ドア付近の状況を確認していれば、悦子がドアに挟まれていたことは直ちに発見できたはずであるのに、この確認を怠つた過失、及び本件バスの乗客は小学校低学年の児童で、降車直後にバスの周辺にいたりすることも十分予想されるから、車の前後左右の確認は慎重になされねばならないのにこの初歩的な義務も怠つた過失があり、これに対比して悦子は本件バスの降車口から僅か二メートル歩いただけで引き返したものであり、バスの乗客が車内での忘れ物を取りに戻ろうとするのは大人でもあり得ることであつて、まして悦子は九歳の児童であつたから、まだ開いているドアから車内に戻ろうとするのは当然のかつ通常の行為であり、運転者からみても予想外の行為ではないから過失相殺はなされるべきではない。

第三証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおり。

理由

一  原告らの地位、本件事故の発生と責任原因

請求の原因一、二の1の各事実は当事者間に争いがないから、被告クラブは自動車損害賠償保障法三条により後記原告ら(原告健を除く。)に生じた損害を賠償する責任がある。

また本件事故の態様は後記二で認定のとおりであるところ、被告谷口は請求の原因二、2で原告ら主張のとおりの注意義務があるのにこれを怠つて悦子を死亡させたものであり、民法七〇九条により後記原告ら(原告健を除く。)に生じた損害を賠償する責任がある。

二  事故の態様と過失相殺について

成立に争いのない甲第一ないし第一〇号証、第一〇三号証と証人池田猛の証言及び原告次雄本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。

1  被告クラブは昭和三七年頃創立され、多数の直営チエーン店を有する会員制のスイミングクラブの一組織をなす有限会社であり、年少者の会員獲得を容易にするためにクラブ生徒送迎用にマイクロバス三台を有していたこと、同クラブでは昭和五七年頃に本件バスと同様の自動開閉ドア付きのバスに切替えており、バスの運転手三名の他に車掌等はいなかつたこと、また、送迎バス乗車希望者からは入会金、会費とは別に月額五〇〇円程度を徴収していたこと

2  原告夫婦は悦子を被告クラブに入会させたが、原告夫婦が被告クラブを選んだのは悦子の身心の育成の目的があつたほかに、同被告クラブが前記のとおり送迎バスを運行させていたので小学生である悦子が通うにつき、その交通禍を避けることも考慮してのことであつたこと、事故当日、悦子は他のクラブ生徒らと共に被告谷口運転の本件バスに乗車し、帰宅中であつたこと

3  本件交通事故の現場の道路状況等は別紙一交通事故現場見取図のとおりで、被告谷口は後日本件事故により福岡地方裁判所小倉支部で禁固八月(執行猶予付)の判決の言渡しを受けたが、同判決の罪となるべき事実は別紙二のとおりであること

4  被告谷口が悦子ら三名を降車させた際、他に数名の生徒が残つて居り、悦子ら三名は「おじちやん、バイバイ」などといつて降車したが、悦子は忘れた傘を取りに戻り、その際ドアに挟まれたものであること

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

右事実により検討するに、本件事故は悦子が本件バスに戻る際に丁度ドアが閉まり、悦子が挟まつたことにより生じたもので、かかる状況の発生はまれなものということができるが、小学生の悦子が忘れた傘を取りに戻つたこと自体を非難することはできず、何より被告クラブは本件バスの運行をその営業の一環としてなし、原告夫婦が期待したとおり交通禍からクラブ生徒を守る契約上の注意義務を負つており、また原告らが抗弁に対する答弁で反論のとおり、発車に際し被告谷口がいずれかの確認をなしたならば本件事故は避けられたのであり、これらの点を総合考慮すると、悦子の行為と事故発生は後記慰藉料の算定において斟酌すれば足りるというべく、損害を一律に減ずべき程の事由があるとはいえず、他にこの判断を覆すに足る証拠はない。従つて抗弁は採用しない。

三  損害

1  原告次雄・同和子について

(一)  医療費 四万五五〇円

成立に争いのない甲第一二号証と原告次雄本人尋問の結果により右額を原告夫婦において支出したと認める。

(二)  葬儀・法事関係費等 一〇〇万円

原告次雄本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第一四ないし第七四号証(第四八号証は欠番)及び悦子の年齢、原告夫婦の社会的地位等を総合して右額を本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

(三)  悦子の逸失利益 一八四六万四六三八円

成立に争いのない甲第七五ないし第九二号証、第一〇四号証と原告次雄本人尋問の結果によれば、請求の原因三(一)3において原告らが主張するとおりの事実が認められ、これに反する証拠はなく、また、公刊されている昭和四九年簡易生命表によれば、悦子は本件事故により死亡しなければ、なお七一年生存したと認められ、この間二二歳から六七歳までの四五年間稼働できたと推認することができる。

そこで、悦子の年収を原告ら主張の額(但し、ベースアツプについては不確定で予測し難いから認めない)とし、生活費控除割合を三五パーセント、現価はライプニツツ式によるものとして悦子の逸失利益を算出すると次のとおりとなる。

算式

(19万6500×12+65万5700円)×(1-0.35)×9.426=1846万4638円(円未満切捨)

原告次雄、同和子は右額の二分の一宛を相続したものであり、その額は各九二三万二三一九円となる。

(四)  慰藉料 合計一二〇〇万円

本件事故の態様、悦子の年齢等諸般の事情を考え併せ、悦子の慰藉料額は六〇〇万円、原告次雄、同和子の慰藉料額は各三〇〇万円をもつて相当と認める。

原告次雄、同和子は右悦子の慰藉料を各二分の一宛相続したから同原告らの慰藉料額はそれぞれ六〇〇万円となる。

(五)  損害のてん補等

右(一)ないし(四)の各原告の合計額は一五七五万二五九四円となるところ、原告らが強制保険より一九七六万四五〇円の支払を受けたことはその自認するところであるから、その二分の一の九八八万二二五円を差し引くと、残は各五八七万二三六九円となる。

(六)  弁護士費用 合計一二〇万円

原告次雄、同和子が訴訟代理人らに支払うべき弁護士費用のうち、各原告につきそれぞれ六〇万円を本件事故による損害として相当と認める。

2  原告健について

民法七一一条は生命侵害の場合の慰藉料請求権者を同条規定の者に限定していると解すべきところ、原告健はこれに該当せず、これらの者に準ずべき特段の事情も認められないから原告健の請求は理由がない。

四  結論

以上のとおりであるので、被告両名は原告次雄、同和子に対し、本件事故についての損害賠償として各六四七万二三六九円宛及びこれに対する事故後であることが明らかな昭和五九年九月一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、右原告らの本訴請求は右の限度において正当として認容し、その余の同原告らの請求及び原告健の請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 牧弘二)

別紙一 交通事故現場見取図

〈省略〉

別紙二

(罪となるべき事実)

被告人は有限会社池田スイミングクラブに勤務し自動車運転の業務に従事していたものであるが、昭和五八年四月一九日午後六時五〇分ころ、大型乗用自動車(マイクロバス)に同スイミングクラブの児童約一二名を乗車させて運転し、北九州市八幡西区筒井町一五番一号先八幡西区役所前停留所において停車して児童三名を降車させ、自動開閉レバーにより乗降口のドアを閉鎖し発進しようとしたが、このような場合自動車運転者としては、自動ドアの開閉ランプを確認するはもちろん、ルームミラー及び左サイドミラーで乗降口付近を注視し、児童が乗降口ドアに挟まれていないことを確認して発進すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、右後方から進行してくる車両に気をとられて、自動ドアの開閉ランプを確認せず漫然発進した過失により、一旦は降車した後車内に引き返そうとした金古悦子(当九年)が乗降口に挟まれたのに気付かず約三四メートル進行した上、乗降口に挟まれていた同女を路上に転落させて左後輪で轢過し、よつて同女に脳挫傷の傷害を負わせ、同日午後八時五分ころ、同市八幡東区西本町四丁目一八番一号北九州市立八幡病院において、右傷害等により死亡するに至らしめたものである。

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